『 第1回大阪研修会場完成記念 製パン技術講習会
仁瓶先生から得たもの 』



こんにちは。ママパンの清水です。
残暑厳しい日々が続いておりますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?
今回は、第1回大阪研修会場完成記念製パン技術講習会をレポートをさせていただきます。

杮落し講習会の講師は、弊社社長の「この方しかいない!」という「株式会社ドンク」の技術顧問、仁瓶利夫氏に務めていただきました。

この業界では知らない職人は居ないぐらいの、製パン業界に大きな軌跡を残されてきたお方です。
日本に「正統フランスパン」を伝えた、フランス国立製粉学校のレイモン・カルヴェル教授の伝承者でもある仁瓶先生が、惜しみもなく業界の皆さんに、「Bon Painへの道」を伝授してくださいました。
今回の講習会メニューは技術講習が4種類で、

①「パン・オ・ルヴァン」
②「パン・ド・カンパーニュ」
③「1930年代バゲット」
④「パン・リュスティック」です。

また、講演という形で、「フランスのルヴァンと日本の天然酵母種の違い」をプロジェクターを使用してお話ししていただきました。

7月3日(日)事前準備1

仁瓶先生は午後から講習会場に入られ、準備をして頂きました。仁瓶先生自ら「種」を持参していただき、先ずは「かえり種」を仕込みました。やはりベースになる部分、基礎・基本は何でも大事ですね。
冷蔵法の「手混ぜリュスティック」を2本仕込むという事で、1本は仁瓶先生が、もう1本は私が仕込ませていただきました。正直緊張もしましたが、ただただ嬉しかったです。

今回、自分が一番楽しみにしていた「パン・リュスティック」。レイモン・カルヴェル教授考案で、ジェラール・ムニエ氏のお店で作られていた純朴な風味のパン。「捏ねる」という「手捏ね」ではなく、あくまでも合わせるという・・・「手混ぜ」。パン生地は普通、「酸化」させるものですが、このパンは出来るだけ「酸化させない」「最小限の酸化でパンにする」という「二律背反」のパンで、私自身も粉の風味を感じたい時や、窯伸びのテストをしたい時などによく作るのですが、今回の様に「手混ぜ」でピックアップ状態終了させるという生地を仕込んだのは初めてでした。本当に良い経験となりました。仁瓶先生、本当にありがとうございます。

無事、前々日の準備も終え、仁瓶先生と上司2名に私の4名で夕食をご一緒させていただきました。
その席の中で「料理に合わせたパンづくり」というくだりがありました。バブル時代のホテルで新社会人を迎えた私自身も、基本的な考え方は「料理に合わせたパンづくり」「料理に合わせたデザート」を常に教えられ、絶えず意識をしてきました。

仁瓶先生は白米とかやくご飯(炊き込みご飯)を例になぞらえて、たまに食べたいご飯(かやくご飯)、毎日食べても飽きないご飯(白米)という事で、味的にも値段的にも日常的に食べられるパンこそがバゲットであると。
昨今の「灰分の高い粉使用のバゲット」や「値段の高いバゲット」に対してのお考えを述べられました。
仁瓶先生の理想のバゲットとは『毎日食べても、食べ飽きないパン』。と仰っていました。

7月4日(月)事前準備2

朝5:30出発。私の車で仁瓶先生と共に会場入りし、仕込みを開始。
日清製粉様のスタッフや、滋賀県米原市でレストラン「ベルソー」を経営されている松田明奈さんも合流し、翌日のランチ用パンの準備も含めて、ミキサーやオーブンの確認などをして頂きながら、昨日仕込んでおいた「パン・リュスティック」と「1930年代バゲット」から順に工程を進めて焼き上げていきました。
その後、「パン・ド・カンパーニュ」、「パン・オ・ルヴァン」と仕込みから焼成まで通しで作業を行いました。
講習メニューとは別に、「1930年代バゲット」を使用した「フレンチトースト」も仕込みました。
元のバゲットが美味しいだけに出来上がりが非常に楽しみなものとなりました。
慌ただしく作業を進める中、シンプルだけど味わい深い、でも毎日食べても飽きない「1930年代バゲット」が焼き上がると、仁瓶先生がカットをしてくださり、薄くスライスしたバターを挟んで、コーヒーと共に朝食に頂きました。本当に贅沢な朝食をいただき、感謝の気持ちでいっぱいでした。
講習会前日という事もあり、時間に余裕のある合間に仁瓶先生の本や資料、写真等を見せていただき、当時のお話を交え、関心深いお話をたくさんしていただきました。こういった機会というのは、身近にサポートメンバーとして関わらせていただいたお蔭なので、非常に嬉しかったです。

私自身、以前専門学校の講師をしており、当時多くの有名シェフの方々の講習会・授業のサポートをさせていただきました。こういう準備段階での会話などは、興味深いお話、身になるお話、気付かされるお話など、その場に居る人間だけの特権みたいなもので、楽しみな時間でありました。特に海外(世界)を経験している方々のお話は未知な事も多く、実体験をされている本当の声というものに興味を強く持ち、刺激を受けた時間・空間でもありました。今回の仁瓶先生のお話を聴いて、歴史背景や文化を知る旅や、海外の職人さん達との交流を図りに、行きたいなと強く思いました。

午後からは、仁瓶先生へのご挨拶に「たま木亭」の玉木潤シェフ、「ア・ビアント」の松尾清史シェフが順にお越しになられました。
「株式会社ドンク」時代の憧れの存在で、今でも緊張する玉木シェフとはゆっくりお話し出来ませんでしたが、仁瓶先生が穏やかな表情で愛弟子の玉木シェフと談笑されるお姿は傍から見てても微笑ましい光景でした。
若い時から面識のある松尾シェフとも少し話をさせて頂きましたが、松尾シェフも仁瓶先生と色々なお話をされていて、変わらず好奇心旺盛で勉強熱心なシェフだなと感心した次第です。
仁瓶先生持参の種を昨日「かえり種」にしたものを、本日「仕上げ種」にしました。2時間常温醗酵後に5℃の冷蔵庫で一晩寝かせます。「ルヴァン」とは、「パン酵母と乳酸菌が共生する醗酵種」です。主に小麦粉、ライ麦粉、水で作ったった醗酵種で、雑菌の繁殖を抑制しつつ、種の安定を図り、生地の醗酵を確実に行ない、風味の向上に寄与する種です。酸性度が高い種なので、使用したパンも保存しやすくなります。「長い間、日持ちすることが大事であった」昔の知恵でもあり、丸い大きなパン(ミッシュ)から最終的にはバゲットのような細長い、よりフレッシュでクルスティアン(カリカリした)な食感のパンになった「フランスのパン」の変遷を知る上でも、基本の種だと思います。
「ルヴァン」というと日本では、ぶどう抽出液から起こす種をレーズン酵母種=天然酵母種という解釈が一部なされ、円形の籐カゴなどで保形し、丸く焼き上げたパンを「パン・オ・ルヴァン」や「パン・ド・カンパーニュ」と案内される事があります。後述しますが、日本には日本の伝統的な醗酵種(酒種)もありますが、フランスではフランスの伝統的な醗酵種があり、明確な定義がありますので、日本で「パン・オ・ルヴァン」と名付けるからには、パンの国「フランス」の定義も認識しないといけないなと改めて強く思いました。

7月5日(火) 講習会初日

講習会初日を迎えました。本日は朝5時半過ぎから会場に入り準備を始めましたが、メイン助手はお弟子さんでもある、「ラ バゲット ド パリ ヨシカワ」の吉川崇シェフが勤められました。2005年のパンの世界大会「クープ・ドゥ・モンド」の「バゲット及びパンスオペシオ」担当で、3位の実績を残された実力派のオーナーシェフです。
仁瓶先生が信頼を置く、吉川シェフとの息の合ったコンビネーションで着々と準備も進み、刻一刻と記念すべき時が近づいてきました。

開始1時間前には、京都の有名店「雨の日も風の日も」の小島シェフもお見えになられ、その後もぞくぞくと受講生の方がお越しになりました。約60名の満席の中、午前10時に記念すべき「第1回大阪研修会場完成記念製パン技術講習会」が幕を開けました。

その日は外気温も高かったのですが、講習会場も仁瓶先生の情熱と受講生の皆さん熱気溢れる空間となりました。 美味しそうなパンがぞくぞくと焼き上がる度、すぐに受講生の皆様にお配りし、皆様の顔がほころぶ光景が広がりました。
また、講習会場には高度なハイビジョンカメラも設置しているのですが、受講生の皆さんは仁瓶先生のお声掛けで、仕込みをミキサー横まで見にきていただいたり、作業台で成形などをしていただいたり、生地の状態を五感で直に感じていただきました。

工程も進み、少し早めのランチタイムとなりました。仁瓶先生の美味しいパンと、大山ハムさんの美味しいハムなどで合わせたサンドウィッチは、アイテムやボリュームの豪華さ、見た目にも素敵なランチに仕上がり、受講生の皆様に提供されました。皆様本当に美味しそうに召し上がっていらっしゃいました。

「パン・ド・カンパーニュ」の生地は捏上間際に「ルヴァン・トゥ・ポワン」=仕上げ種を加えて、捏ね上がった生地を別取りし、「1930年代バゲット」の生地と合わせます。(捏ねて混ぜ合わせる)
なまこ形(1本クープ)、ファンデュなどに成形してバヌトン取りで最終醗酵からの焼成でした。今回の手粉はメールダンケル(ライ麦粉末)とリスドオルの混合粉です。バヌトンなどに振る際もライ麦特有のフレーバーが、このパンらしさに寄与するのと、布などに引っ付きにくくなるメリットがあります。ただし、振り過ぎるとクラストの風味を相殺してしまうので、出来るだけ最小限で使用します。

「パン・オ・ルヴァン」は、元々、「ルヴァン・ナチュレル・シェフ」=親種、「ラフレイシ」=かえり種、「ルヴァン・トゥ・ポワン」=仕上げ種からの本捏ねとなるのですが、今回は「パン・ド・カンパーニュ」の捏ね上がった生地をバゲット生地と混ぜる前に取り分けたものを、1000g以上のミッシュ(大きな丸い形)や、なまこ形に成形して焼き上げられました。
リスドオルとアーレファイン(ライ麦全粒粉の細挽)で起こしたルヴァンを用いて、酸味とボリュームのバランスの良い2段階製法での仕込みでした。程良い酸味とかぐわしい香りが食欲をそそられるパンで、料理、チーズ、ワインと共にしたいなと感じました。

「1930年代バゲット」
今回の製法では、捏上後30分経ってから一度パンチをします。その後14℃設定の冷蔵庫で一晩寝かせます。微量のセミドライイーストレッド(ビタミンC添加無し)で生地を醗酵・熟成しています。オートリーズも含めてですが、ストレスの少ない環境下で製造したバゲットは本当に素晴らしい味でした。
また、14℃で生地温度をキープしてからの翌日分割なので、復温させる時間が掛からないのは本当に大きなメリットだと思います。温度管理出来る保管場所(ドゥ・コンなど)さえあれば、朝一番から焼きたてのバゲットを製造販売出来ます。労働環境、お客様にとっても有益な方法で、ぜひ、現場でもたくさんの方々に実践していただきたいなと感じました。

個人的に大好きな「パン・リュスティック」は、プレーンタイプと、セミドライアプリコットとくるみ入りのアレンジタイプと2種類製造しました。仁瓶先生リクエストのセミドライアプリコットは自身も大好きなメーカーさん取り扱いのもので、非常に美味しかったです。ぜひ自分も作りたい逸品となりました。
小麦粉の酸化が抑えられている為、小麦粉のカロテン色素の残存度が高く、内相は黄色味の強いクリーム色です。よく見かける四角形だけでは無く、長方形にカットしたもの、長方形からねじりトルデュ形と、形・大きさにより、火の通り方も違いますので、それぞれの食感・美味しさがありました。

吉川シェフのお手伝いは今日1日限りでした。普段はなかなかパン作りをされている所を見る機会が無い中、今回は1日一緒に作業をさせていただきまして、立ち居振る舞い、パン生地への向き合い方など、一挙手一投足を観察させて頂き、ありがとうございました。

7月6日(水) 講習会2日目

2日目の本日も60名以上の受講生の方々にお越し頂き、午前10時より開講しました。

昨日の内容も踏まえて、より良い形で講習会が進行しました。パンたちも、「食べたい!」と素直に思う、非常に顔の良い仕上がりで見るからに美味しそうに焼き上がりました。実際食べてみて口溶けが良く、私は何もつけずに食べ続けたいと思うパンばかりでした。

今日は、翌日の為の準備も無いということで、サポート作業も少し余裕がありました。講演の時間には私も末席で聴講させていただきました。私自身今回の講習会では、この講演内容に非常に興味を抱いておりました。
お題は「フランスのルヴァンと日本の天然酵母種の違い」というお話でした。私自身も「天然酵母」という言葉に違和感をずっと抱いており、今回の仁瓶先生のお話で腑に落ち、クリアになりました。
フランスでは1993年に「デクレ・パン」といって、『パンの法令』が制定されました。

第4章で「ルヴァン」の記述があるのですが、前途したように、フランスでは、小麦粉、ライ麦粉、水から作られた酸性の醗酵種で、乳酸菌とパン酵母が共生した種です。日本では主に、レーズン酵母種の「天然酵母パン」が広く紹介され、一般化されました。果実や野菜の抽出液から起こした醗酵種、各ネームバリューのある天然酵母の素。それぞれに愛好家の方(需要)があります。パン好きな方々が、自分に合った材料を使用されるのは良い事だと思います。ただ、「酵母」とは「微生物」(菌類)です。生物である以上、自然界に存在するもです。
培養する方法、醗酵活動に差異はあっても、大元は一緒な筈です。今回の講習を受け、物事の本質や、正確な知識、情報を知り得る事を改めて私自身、努めていきたい思いました。また業界の後輩やお客様にも、大事な事ほど、噛み砕いて正確に伝えていかないといけないなと改めて感じました。

最後には、受講生の皆様方にマイクをお渡しし、質問や感想を述べて頂きました。突っ込んだご質問をされた方もいらっしゃったり、早速、業務に反映させるという方も多くいらっしゃいました。ひとつひとつに丁寧にお答えになられていた仁瓶先生の対応にも感服致しました。

パン・オ・ルヴァン

パン・ド・カンパーニュ


有名・人気店のオーナーシェフ様や若い職人の方々まで幅広く、「仁瓶利夫」氏の技術・知識・歴史のお話しに興味を持たれ7月5日(火)、6日(水)と合計120名以上の方々が受講されました。
製パン業界にとっても、大変意義のある講習会だったと思います。
どの業界でも現在までの歴史を振り返り、時代背景を紐解き、先人たちの知恵や功績を知り、思いを巡らし、現在の仕事に落とし込み、未来に活かしていく事は大事だと思います。
私自身にとっても、改めて気付くこと、腑に落ちたこと、新しく知り得た知識・・・五感すべてで様々なものを感じました。業界の為に、お客様の為にしっかりと還元出来るように意識を持ちながら、業務にあたりたいと強く思いました。

最後に、仁瓶先生、この講習会に携わったすべての方々に感謝致します。
本当にありがとうございました。