Regenerative Bakery Project

リジェネラティブベーカリープロジェクト
特別企画

米山 雅彦
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くらもとさちこ

土から考えるパンづくり
~ライ麦が育む、パンと大地と未来~

2025年5月12日(月)
会場:株式会社トクラ大阪
主催:アグリシステム株式会社
協力:株式会社トクラ大阪 戸倉商事株式会社


Instructor講師のご紹介

米山 雅彦シェフ

Pan calite

https://www.instagram.com/pancalite/

日常の食卓を支えるパンを作るという想いから「PAINDUCE(パンデュース)」のグランシェフに就任。
野菜をふんだんに使用したパンを前面に打ち出し米山スタイルを確立。
日本農業への関心も高く国産小麦を積極的に使用。生産者の顔の見える食材にこだわられています。
2024年12月に自身のお店「Pan Calite(パンカリテ)」(神戸市灘区)をオープン。

くらもとさちこ

Sachiko Kuramoto

https://www.instagram.com/sachikokuramoto.dk/

『北欧デンマークのライ麦パンロブロの教科書』著者。コペンハーゲン在住。
専門は食と文化。デンマークでオーガニック菜食給食の導入や献立指導に携わり、心とからだと環境にやさしい食生活を提唱。
30年以上の暮らしで築いた独自の視点で、デンマークで培われた豊かな文化と人々の暮らしに密着してきたパン「ロブロ」を啓蒙されている。

Organizer主催・講師

アグリシステム株式会社
代表取締役社長

伊藤 英拓

https://www.instagram.com/agrisystem.tokachi

2019年12月にアグリシステム代表取締役社長に就任。
「未来の子どもたちのために」を理念に掲げ、オーガニック農業やリジェネラティブ農業の普及、北海道小麦ヌーヴォーやリジェネラティブベーカリープロ ジェクトなどを推進。
育てる人・作る人・食べる人をつなぎ、新たな豊かさを育む流通や食文化の創造を目指し、自然と共生する持続可能な社会の実現に挑んでいます。

Assistantアシスタントのご紹介

COMFYET

谷池 将一 sous chef

「 Comfyet = コンフィエ」の名は英語の「Comfortable = 心地よさ」とフランス語の「 et = ~と」から生まれました。
くつろぎや喜びとともにあるパン、日常を新しく豊かにしてくれるパンを、お届けされています。

junkynonky

大谷 あゆみ

香川県さぬき市小田にてパンとお料理のお店をされています。
美味しさへの妥協を一切しないことをポリシーとし、厳選食材と丁寧な調理法を貫かれています。

RUGBRØD Premiery

わたなべ えりこ

兵庫県たつの市でロブロの美味しさを伝えるRUGBRØD Premiery(ロブロプルミエ)を主催。
エシカルな視点で持続可能な未来を考え、ライ麦全粒粉のみで作るロブロとその楽しみ方を探求。
主婦でありながら、ライ麦栽培にも挑戦されています。

Opening開会の挨拶

司会のアグリシステム遠藤室長、弊社取締役副社長、トクラ大阪代表取締役社長の杉江のご挨拶から、米山シェフの磨き上げられた技術とくらもとさんの知見が融合した、日本のパン文化に新しい風を吹き込む、未来のパンづくりに繋がる講習会がスタートしました。


Work shopアグリシステム株式会社代表取締役社長 伊藤 英拓 氏

まず、「アグリシステム」とはどんな会社なのか?

Founding philosophy

創業理念

生きた土
健全な作物
人間の健康

伊藤社長は、教育や医療などを総合的に考えながら今の社会問題を解決していくという想いで、 経営理念は「未来の子どもたちのために」とされました。

ベーカリー様にとっては「製粉会社」というイメージが強いのではないでしょうか?
実は農協さんのような仕事を民間企業として始め、その後「製粉事業」を始めた会社です。
現在では北海道全体500件もの生産者さんから小麦や大豆・小豆などの穀物を買われて、選別や加工を行い販売されています。
「フィルドマン」という畑のコンサルティングを行うメンバーが生産者さんと協力して、土づくりなどの環境保全型農業の普及にも取り組まれています。
農家ではない自分たちがオーガニックのノウハウをどう伝えるのか?いつか必要とされた時にお手伝いができるようにと考え、トカプチ(株)を20年前に設立。
また、オーガニックライフの提案を行うオーガニックパン工房風土火水、ナチュラルココ(株)としてオーガニックショップやカフェ・ワインのセレクトショップの運営、コスモス森の学校・森の保育園として森と畑の教育や、野外活動・芸術・遊びを中心としたシュタイナー教育の場も運営されています。

当店でも毎年楽しみにされている方も多い「小麦ヌーヴォー」も企画されていて、開始から12年となり、今回の講師でもある米山シェフを十勝に招き、新麦でパン屋さん・生産者さん・消費者のみんなで乾杯!として始められました。
現在は1,100人を超えるパン屋さんが小麦畑にも足を運ばれています。
そういったつながりが今回のリジェネラティブ・ベーカリープロジェクトにも繋がっています。

アグリシステムの
想いや考え。

オーガニックに関して

オーガニックが広がってほしいという想いはありますが、それが「分断」を生んでいると感じておられます。オーガニックを強調しすぎると、扱っていない農家さんを否定しているのではないかと。あくまで選択肢の1つとして考えることを大切にされています。

One table ワンテーブル

アグリシステム様が目指すものをさす造語です。
今の社会のあらゆる問題は「分断」から生まれている。組織・企業・社会全体で生産・流通・消費という繫がりが分断されているのではないかと考え、そこを繋げていきたい。 育てる人・つくる人・食べる人、立場を超えて一つのテーブルに集い、対話そして相互理解を深めてお互いを尊重することで、新しい豊かさのある世界をつくり、育てていくという考えです。

世界・日本が抱える問題

世界的に主要な問題である「土壌の劣化」。
1年間で約240億トンの土壌が侵食され、劣化しています。また、「水資源の枯渇」も問題で、農業の淡水利用は約70%を締め、過剰な灌漑が地下水の減少を引き起こしているようです。
この他にも、「農薬、肥料の影響」「生物多様性の喪失」などが世界的な問題となっています。
日本においても、高度経済成長以降で農地面積が大幅に減少し、2020年には1960年対比で約40%の農地が減少。
また、農業従事者の高齢化と後継者不足により、農作放棄地が増加しているとのことです。
化学肥料や農薬に関しては、使用を大幅に低減する「エコファーマー」の普及が進む一方、全体の使用量は依然高いままで、 他にも窒素肥料による地下水汚染などといった問題を抱えています。

解決に向けて~リジェネラティブ農業~
海外資材に依存しない地域完結の低コスト&循環型農業の確立
次世代に健全な土壌を継いでいくための土壌づくりや生物多様性の保護


この2つを実現する手段として、リジェネラティブ農業(環境再生型農業)を行っていく。
リジェネラティブ農業=土・命・暮らしをつなぐ循環の営みであり、具体的には次の3つを目指していく。

1》緑肥、不耕起、有畜等の技術融合
2》外部資材に頼らない自立型循環農法
3》生態系、健康、経済の三方良しを実現

リジェネラティブ農業との出会いは、アウトドアウェアやギアなどで世界的に有名なpatagonia(パタゴニア)社。
patagonia社は、リジェネラティブオーガニックという認証機関を設立し、リジェネラティブとオーガニックを両立されています。
2020年に十勝の農場に来られ、トカプチ(株)の運営するワイン用ブドウ畑がそれに当てはまると認証されたことから「一緒にやっていこう」と声をかけていただいたそうです。
リジェネラティブ農業を追求すると、書籍「土を育てる」著者でありこの農法のパイオニアである、ゲイブ・ブラウン氏という方に行きつきます。ブラウン氏のリジェネラティブの考え方は、 根本的に土壌を健康で元気にすること。そのために提唱された6つの原則の中の1つには「土をかき乱さない」があります。
「耕さないオーガニック」「耕すオーガニック」で土壌を比べると、窒素・リン酸・カリ・有機物などの量が大きく違ってきます。
だったら土壌をどう健康に保つのか?リジェネラティブ農業はそこに重きをおいた考えです。

ライ麦の可能性

ライ麦は高く上へと伸びる植物で、上に伸びる植物は地中深くまで根も伸びます。 根が深く伸びることで、土が自然と耕され土壌の環境改善にもつながります。
その他さまざまな効果があり、土壌を健康にする最高の作物であると考えられました。
アグリシステム様は強みでもあるパン屋さんとの繫がりがある中で、「ライ麦を植えよう」と農家さんへの提案を行い、たくさんの賛同を得て、ライ麦が育て始められました。
最初の3年間、多くの農家さんの協力もあって、生産は順調。
ですが、消費が追い付かないという問題に直面。4年目には、農家さんにライ麦の生産を止めていただくこともありました。
そんな中で、小麦ヌーヴォーなどを通じたパン屋さんとの繫がりを活かし、2023年10月に全国から集まった11名のパン屋さんによるライ麦拡大のための話し合いの場も開催。
この取り組みは同年の農林水産省のサステナアワード2023を受賞しました。

REGENERATIVE BAKERY
PROJECT.
次世代のために
土を育てるパン職人たちの輪を広げる
プロジェクト。
リジェネラティブ・ベーカリープロジェクトの誕生

環境再生型農業(リジェネラティブ農業)で育まれた農作物を、パンづくりに取り入れることで、健全な土づくりや生物多様性の保全につながる。
そんな農業の在り方を応援したいと願うパン職人さんたちを少しずつ全国に増やそうというプロジェクトです。
「未来の土を育てたい」「子どもたちの健康を守りたい」という想いを共有するベーカリーのつながりが地域とともに広がっていく。
そして、それに呼応するようにリジェネラティブ農業に取り組む生産者も増えていく。
そうなることで、パン職人と農家が想いでつながり、支え合う「良い好循環」を生み出すというものです。
昨年の大阪からスタートし、7カ所の地方で勉強会を開催し、175名の方が参加をされています。
今回は定員60名の満席となり、また更にアグリシステム様の想いが多くのパン屋さんへとつながった会となりました。
参加店様へはサポートとして、店頭用POPの提供や感謝状をお送りしたり、「パンめぐ」さんでの紹介などを行われています。

では実際にどういうことから始めればいいのか?そういう質問も多かったそうです。
想いの一部を体現化するために、7つの項目が考えられました。
こうした取り組みを生産者さんへ「やっていればOK・やってください」という考えでは分断を生むと考え、 完成された「規格」や「認証」だけを評価するのではなく、現状を“見える化”して共有し、今とこれからの歩みとともに、よりよい土壌へと育てていく。
その過程をみんなで見守り、応援していくための指標とされています。

転換期間中有機小麦の普及

持続可能な農業の実現、高コスト農業からの脱却を目指し、有機転換する農家さんが増えているようです。
2022~2024年で26軒(合計約285ha)が有機栽培へと転換されました。
ですが、いきなり「有機」とは謳えず「転換期間中」と記載が必要となります。 この表記のために、扱いを控えるメーカーもいらっしゃいます。
ですが、「転換期間中」が普及をしないとオーガニックは広がらないと考え、転換期間中有機小麦の販売を開始されています。
また、大豆ではありますが、転換期間中有機農産物を積極的に利用するオーガニック普及の応援として「転換有機ポジティブキャンペーン」を実施し、 21社がさまざまな転換期間中大豆を使った商品を販売しておられます。

「未来は、今日の選択から育つ」

リジェネラティブは、手段ではなく、在り方の問いかけ。
成果を急がず、感情などの揺らぎや過程にも寄り添いながら、色々な立場の方の価値観を否定せず、 相互理解を深めてつながり合う。育てる人・つくる人・食べる人、みんなで1つのテーブルに集って、健やかな循環を育んでいく「One table」の考え。
私たちの選択が、未来への希望や土壌を手渡していけるように。
子どもたちの未来のためにできることを考えると言えば大げさかもしれませんが、一人一人がこれは身近な問題であると考えれば、 少しでもいい未来へとつながるのではないかと感じました。リジェネラティブの中の一人となれるように考えたいと思います。
アグリシステム様は、くらもとさんとのご縁からデンマークのライ麦と品種改良をほぼしていない古代ライ麦とスペルト小麦を北海道で育てられるかをチャレンジされるようです。
また新しいものができるのではないかと講習会でお伺いした際には、とてもワクワクしました。またいい素材がパンへと変わっていけるようになることを祈ります。

LecturePan Calite 米山シェフ

今回、米山シェフにはアグリシステム様が8月に発売予定の「砕きライ麦」を使用した塩麹のパンの成形を変えて2種類、ワンローフ型のロブロの実演をしていただきまし た。

LECTURE 01

砕きライ麦入り塩麹パン

配合は少し違いますが、実際にお店でも売られている「MAKURA」と言われる大きいパンと塩パンの2種類を作っていただきました。

冷蔵発酵後の生地の分割からスタート。
塩パンは分割して丸めてマフィン型へ入れて2次発酵、「MAKURA」は分割後にベンチタイムへ。
お一人でお店をされている中で、全部のパンにベンチタイムをとらず、分割してそのまま成形に持っていくなど、生産性を上げる工夫をされておられます。
また、冷蔵発酵のパンにおいては、復温をせず、そのまま分割されることが多いようです。昔はミキシングの時間は感覚で、レシピ帖も持たれていないとのことでした。
Pan Caliteをオープン後、そういった点も見直し、「時間」を改めて意識されるようになったそうです。

このパンのメインの粉として使われているのは、米山シェフとアグリシステム様が共同で開発された「hinna(ヒンナ)」をご使用されています。
ゆめちから・はるきらり・キタホナミ・ホクシンをブレンドされている粉です。
PAIN DUCE時代から今もメインの粉としてご使用されています。
デザインもシェフのお知り合いのデザイナーさんに依頼されたこだわりの小麦粉です。

また、今回一緒に使われている「本別町の石臼挽き地粉」は、キタホナミ品種使用し、5%ほどピーリングしたものを石臼で挽いた全粒粉です。
ふすまは7層くらいの構造なのですが、ミネラルなどは中の方のアリューロン層に多く含まれています。身を守るためにある外の固い繊維の部分をピーリングして、味や栄養価の高い部分を残して製粉されている粉です。

誰から買って、
何をつくって、
売れるものにするのか。

シェフもオーガニックアイテムは使われますが、「誰から買うのか」を大切にされています。
商売をする以上、「誰から買って、何をつくって、売れるものにする」ということをしないといけない。
その中でも「誰から買うのか」をとくに大切にされています。アグリシステム様の商品はトレーサビリティがしっかりしているので、生産者さんが分かる点も含めシェフが愛用される点だとお話をされていました。

シェフが参加されているハートブレッドプロジェクト活動の際にライ麦の話があり、「誰から買うか」を考えた際に、人・考え方に共感してアグリシステム様のライ麦を使い始められました。
それが、今回のパンにも使われている「北海道十勝産ライ麦全粒粉 ハンコック」です。
こちらは細挽きのタイプで、8月からはロブロ用も考えた粗挽きのライ麦全粒粉が発売をされる予定とのことです。

他にも使われている素材は、高知県の天日塩や、愛知県の角谷文次郎商店の有機みりん等をご使用されています。
また塩麹は、発酵がテーマのレストランからのお話で「塩麹のパン」をつくる中で、おいしいものが出来上がり、今のお店でも取り入れられたそうです。
Pan Caliteをオープンするにあたり、限られた売り場に並ぶパンをつくるために小麦粉も選び抜き、素材にもこだわられています。

LECTURE 02

ロブロ(ワンローフ型)

ロブロのレシピは、くらもとさんの『ロブロの教科書』に書かれているものがベースとなっています。
Pan Caliteさんとしてのオペレーションを考えて冷蔵発酵を選択。冷蔵の発酵温度が教科書とは違うので、ライサワー種の量などは調整されています。
デンマーク政府は栄養の点などから、8時間の発酵を推奨しているので、その工程も取り入れられています。
工程としては、混ぜて型に入れるというシンプルなもの。焼成の際には、ワンローフ型に天板で蓋をして焼成→途中で天板をはずしての焼成をされていました。
時間で焼成はされますが、教科書の通りに中心温度が98℃以上になるように計られていました。
ここまで温度を上げる理由として著者のくらもとさんは、生焼けのようになるとおっしゃっていました。

今回使用されているサワー種は、PAIN DUCEの時から使われているレーズン種を使ってライサワー種を起こされています。
リフレッシュの相談をくらもとさんとした際に、「昔のロブロは生地桶に残った生地が乾燥したものに、水と粉を足して発酵させていた。そのスタイルにするのもいかがですか。」というご意見や、これからパン屋を続けて行く中で、めんどくさいと思うことは省いて行こうということもあり、週1回のリフレッシュとされているようです。

「パンに機能を持たせる」ということはあまりしてこなかったが、 伊藤社長にくらもとさんと繋げてもらった時に聞いた「保育園で提供するロブロを通じて、子どものお通じが良くなった」との話から、ライ麦の効果を実感されました。
伊藤社長がライ麦を広める→ライ麦を使うパン屋さんが増える→土壌の改善が進んでいく、子どもや大人の体調も改善していく。
これはすごいことなのではと感じて、ロブロやライ麦パンへ取り組まれています。
ライ麦の消費をしていかないといけないというところから、パンはもちろん、ラングドシャやフィナンシェにもご使用されています。
日本のライ麦は「肥料用品種」を商品化している所が多いようですが、アグリシステム様は「食用品種」を使用。肥料用=食べられないということではないし、シェフとしても、ライ麦が広まっていくことによる効果で土が改善されていくことを期待されています。

「風景が見えるパン、土に近いパンをつくりたい」

米山シェフは「風景が見えるパン、土に近いパンをつくりたい」ということを意識されています。
シェフは土には触れていないが、土に近い生産者さんとの繫がりがあるところをお客様にも感じてもらいたい。
直接畑にも訪れ、農家さんとの繫がりも大切にされています。
Instagramなどでもどんな粉を使っているというお話なども投稿をされています。
生産者さんの顔の見える食材にこだわられているからこそ、つくることへの想いも強くなるんだなと感じました。
そういったパンを食べれるということは、とても幸せなことなんだと感じました。

Lunch and.
試食・ランチ

講習会の裏では皆様にお召し上がりいただく、試食や昼食の準備に大忙しでした。
新ニンジン、新玉ねぎは、香川県のジャンキーノンキーさんがご用意くださいました。植物性循環農法という、緑肥を育て畑に鋤き込み、発酵させて、まずは土を作る。それから野菜を作る農法です。
ジャンキーノンキーさんでは、この農法をされる農家さんの野菜を使われています。北海道と香川という離れた場所で、今までつながりがあるわけではなったのですが、「土づくり」という共通点があったことを嬉しく感じておられました。

新玉ねぎのスープ

新玉ねぎを太白胡麻油で炒めて、水と塩だけで味付け。シンプルな材料だけなのに、とてもうまみのあるスープでした。クルトンとして使用したロブロが、ホロっと砕けて調味料を入れたかのように味わいに変化を与えていました。

ロブロサンド

白いんげんのカレーペーストと刻みパセリやアーモンドを使ったペーストの2種類とたっぷりの野菜のサンド。手に収まるようなサイズ感ではあるものの、食べ応えたっぷりのサンドでした。

スモーブロと色々なロブロ

左上:デンマークから持ってきたバター+北海チーズ
右上:ぱりぱりロブロとぽりぽりロブロと北海チーズ(試食にてご提供)
左下:白いんげん豆のペースト+新ニンジン+スナップエンドウ
右下:グリーンペースト+タマゴサラダ

チーズは「北海チーズ」と呼ばれる、今デンマークで一番人気のチーズ。
どこのカフェにも置かれているような定番のチーズだそうです。ハードよりの食感で、ロブロとの相性も抜群でした。試食でお出しいただいた「ぱりぱり」「ぽりぽり」は、同じロブロでも形次第で楽しみの幅の広さを感じました。

ロブロのお祝いケーキとヨーグルト

ケーキは、ロブロなので小麦粉とバターは不使用。
ヘーゼルナッツを入れて、バターのようなコクを出されています。酸味のあるジャムとクリームのマイルドさ、シンプルなロブロだからこその味わいなのかなと感じました。
ヨーグルトはジャンキーノンキーさんのいちごピューレとマイルドな味わいのカカオニブ、そぼろ上のロブロがトッピングとしてかけられています。

Lectureくらもとさちこ 氏

ライ麦(RUG)はデンマークにて1,000年以上に渡って「食」を支えてきた穀物です。
「ロブロ RUG BRØD」=「ライ麦パン」という意味で、ライ麦=北欧のイメージが強いですが、ライ麦を栽培し続けてきたのは北欧でもデンマークだけとのこと。
フィンランドでは、焼き畑を行い、地中温度を上げてから種を植えて麦を育てたという歴史もあります。寒い国にとっては穀物を育てるのは難しく、大切にされてきた食材です。
また、スウェーデンやノルウェーでは粉が挽きにくい環境ということもあり、パンを焼く文化が昔はあまり育たなかったと言われているようです。

LECTURE 01

デンマークについて

デンマークは世界で2番目に古い王国で、幸福度の高い国と言われて、教育・医療にはほぼお金がかからず、年金などの制度がしっかりしています。
所得税は約50%、消費税は25%と税率は高いですが「その税金で何が得られるのか」を考えている人が多いとのことです。
オーガニック先進国としても名高い国で、「何かに先駆する、特化しないと商売にならない」という考えから、オーガニックのノウハウを構築していくことを国として進めていったようです。 スーパーなどの一般売り商品のオーガニック普及率も世界一です。
なぜここまで普及率が高いのかは、国が学校給食の食材として使用するようよう働きかけたことで消費が確立され、農家が安心してオーガニック食材を育てることができる「国・企業・消費者」でオーガニックを育ててきたという背景が影響しています。

小さい国である中で、「人」を大切に教育することが国力になると考え、「自分たちが自分たちの国家をつくる」と政治意識も高く、投票率は90%もあるようです。
デンマーク(北欧)ではクリスマスは光のお祭りです。太陽の光が徐々に強くなっていくことで、作物が育っていく。
夏至には、冬を乗り越えるための厄除けをします。穀物を育てるのに、太陽が欠かせないためにすごく大切にされているということが分かります。

LECTURE 02

ロブロについて
未来を育むデンマークの知恵。
ロブロは、子どもの健やかな成長を支える食の礎。

デンマークでは生後10カ月から、細かく挽かれたライ麦を使ったプレーンのロブロを食べるのが推奨されています。
”子どもに与えることを推奨するほど栄養価の高い食べもの”で、どんなにロブロから離れていても、「子育てはロブロに戻る」という格言もある程、子どもにはロブロを食べて育ってほしいというDNAが刻まれているようです。 くらもとさんも、子どもが生まれた際には「ロブロだけは手作りで」とご主人からお願いをされたそうです。
保育園や幼稚園でもロブロ食が推奨されていて、日本国内の幼稚園でも1年半ほど四角いクラッカーのようなロブロが提供されているようです。
しっかりと焼くことで、子どもが食べやすいように酸味を飛ばし、硬いロブロは噛む力の育成にも繋がっているようです。
また豊富に含まれる食物繊維の効果から、デンマークでは子どもの便秘は少なく、日本の子どもが便秘すると聞いた時には衝撃を受けられたようです。
大人にとっても生活習慣病に効果的と言われていて、ロブロの機能性をきちんと伝えて気持ち良く過ごしてもらえるようになることを望まれています。

デンマークでは、ロブロはつくる人よりも買う人が圧倒的に多いようです。
税率も高く、共働きで時間がないことや、毎日食べるものなので何回も焼くのは手間だということが理由のようです。
昔は農村の共同窯で月に1回まとめて焼かれていたそうですが、日持ちさせないといけなかったので、今よりも水分活性をおさえて作られ、固くなると水につけるなどして食べられていたそう。

形の決まっていなかったロブロは、工業生産の時代になって効率化を図るためになまこ型・レンガ型になりました。
第一次世界大戦時の配給制度に伴い、ロブロに一定の基準が設けられ、現在もデンマーク内のロブロはほぼ同じ型で焼かれています。 一部、ドイツ領であったところではなまこ型が残っていましたが、今では経済成長のあおりでなくなってしまったようです。
ロブロが袋パン化されるようになり、スライスが問題になりました。
ライ麦パン特有の切りにくさが問題となり、効率化を図るためにシード類・小麦粉を入れることで切りやすくしたことで解決となったことをきっかけにロブロに副材料が入っていくようになったとのこと。

色が濃いロブロはオーブン内の湿度によって色付きが良くなるとのことです。
デンマークにはロブロ用の型があり、湿度の調整で色づきをコントロールされています。
くらもとさんは、その湿度の調整を食パン型で蓋をすることで調整をされています。

LECTURE 03

ロブロの作り方

くらもとさんは、すごく混ぜるわけではないですがムラが出ないように混ぜることを意識。
新商品である砕きライ麦も入れられています。デンマークでもこういったアイテムを入れるのが好きという方が多く、日本でも同様のものが販売されるのを喜んでおられました。
ロブロのホロホロとした食感で大事なのは、「粗挽きであること」とおっしゃっていました。
できるだけ粗いものを使う方が、ロブロ特有の食感を出せるようです。

HOW TO BAKE.

くらもとさんのご厚意で掲載許可をいただきました「基本のロブロ」のレシピはこちらから確認いただけます。

基本のロブロ 食パン型1斤分

©くらもとさちこ

焼きたてから熟成まで、
変化を楽しむ。
デンマークの食卓に息づく
1000年の知恵。

人気の食べ方であるスモーブロ。
スモーブロ=何かを乗せたパンという意味で、レストランで出てくる華やかなものもありますが、シンプルに何かを塗って食べるだけでもスモーブロになります。
とても手軽に作れる事からお弁当にしたり、何かをお祝いする時にもスモーブロは定番の食べ方です。
また、ジャムなどを薄く塗ると子供にも食べやすくなるので現地ではとても親しまれているようです。
デンマークではスモーブロの人気が復活してきているそうで、改めて注目されているとのこと。
基本的にはお昼に食べるものなので、ランチメニューにはスモーブロがあっても、夜には提供されていないお店もあるようです。
お昼にしか楽しめないことで、「スモーブロを食べるなら、観光はあきらめる」と言われることもあるようです。
ロブロの真骨頂は「熟成が楽しめること」。初日は少し荒々しい勢いのある味わいですが、2~3日目になるとだんだん味がまとまっていく。
それ以降は水分が抜けて枯れていくようなイメージで、薄くしたり、クルトンにしたりして楽しめます。さらに乾かして、日持ちさせて楽しむことも可能です。
焼きたては切りにくいので、くらもとさんは2日程待ってからカットされているそうです。
くらもとさんは、ロブロのある暮らしは、どの世代にとっても役に立つと考えておられます。
消化を助ける・腸内環境の改善・ミネラル摂取等、様々な世代の方に使っていただけるパンであると。
デンマークで1,000年もの間、人々の食生活・健康にも貢献をしてきた「ロブロ」。
1つのパンでありながら、機能性にも富み、様々な味わい方を楽しめます。
「ロブロ」というパンへの可能性をとても感じるお話ばかりでした。

End.最後に

この講習会を通して、育てる人・つくる人・食べる人、それぞれが意識をしないと変わらない。
自分も環境に関わる中の一人なんだ、そう強く感じました。伊藤社長・米山シェフ・くらもとさんのお話を聞いていて、「リレー」という言葉が思い浮かびました。
食材は形を変えるバトンであり、ライ麦からパンへ。生産から消費までの過程で、どこかが欠けたり、崩れたりすれば成り立たない。
「食」に携わる中で、このバトンを大切に繋いでいくことが大事なんだと感じました。改めて「食・環境・未来」ということに対して、もっと真摯に向き合わないといけないと感じました。
このレポートを通して、リジェネラティブベーカリープロジェクトへの参加や、ちょっとした未来につながることを始めてみようと思っていただけますと幸いです。
今回アグリシステム様の新商品が発売の際には当店でもお取り扱いを検討させていただいております。
発売の際には、ぜひお試しいただけますと幸いです。